ヴァイオリンの弓を選ぶ

ヴァイオリンの弓は、ヴァイオリンの上達に対して楽器本体と同じ位、大事なものです。弓は非常に繊細な道具であり、しかも演奏中の強い圧力に耐えなければいけません。美しい音色を出すためにはしなやかさも必要です。また、弓のスピードも大事であり、そのためには軽量である必要があります。

ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロと弦楽器の弓は、全て同じ仕組みで作られています。現代の弓は逆ぞりといって1750年ごろに発明されたといわれており、モーツァルトやハイドンの時代に徐々に普及してきました。逆ぞりの弓は長く一定の音を出すことができ、それによって流麗で息の長い旋律を弾くことが出来るようになりました。

一般的に弓は楽器の値段の1/3以上が望ましい、と言われています。それは一応の目安として、実際に試奏して楽器に良くフィットする弓をじっくり探すのが良いと思います。楽器にフィットする弓は試奏すれば分かります。もちろん、ある程度の技量は必要で、しっかりしたボーイング、弓を飛ばすテクニックなど、基本を押さえていないと本当の良し悪しは分かりません。

弓には様々な要素があり、重さも異なります。良い弓、と感じたものは実は足りない技量を補っているだけかも知れません。ボーイングが不安定な人は重めの弓のほうが良いと感じるかも知れません。弓の持ち方が良くない場合は、持ちやすい軽い弓を選んでいるかも知れません。弓が上手く飛ばせない人は、弾力のある弓を選ぶかも知れません。弓は結構技量と関係しますね。

もし弾いても善し悪しが分からない場合は、ブランドに惑わされず、良し悪しがある程度分かるようになるまでの数年間はカーボン弓を含む安い弓を使ったほうが賢明です。

良い弓とは?

弓の制作技術はとても高度なもので、少しでも反りやヨレがあると演奏に影響します。適度でしなやかなしなりが無いと楽器に馴染みません。良い弓は楽器に吸い付く、と言われます。実際に良い弓で弾いてみれば、その感覚は分かります。楽器屋さんや楽器フェアで良い弓で試奏してみてください。でも良い弓は値段が高く、数十万円程度になります。

まず、弓の反りを見るためには、弓元から弓を見てみます。ここで多少でも反りやヨレがあったら、その弓はNGです。実は毛の張り方で弓の反りを調整できたりもしますが、買うなら調整の必要がない弓を選ぶべきです。といっても試奏では毛が張られていない状態の弓は確認できないので、意外と見抜きにくいです。少なくともスクリューを緩めてみて、形状が変化するかを確認してみてください。

弓は新品だと経年変化でヨレたり、折れたり、割れたりし易いです。特に最初の1,2年は要注意で、高級でも少し不出来な所があっただけで割れたりします。新品の弓でヨレがあったら、その弓はさらに変形する可能性があり、折れる可能性も大きいです。あとは運ですかねぇ。

弓は一見丈夫なのですが、折れる時は意外に簡単に折れます。筆者は本番直前にヘッドの部分が折れてしまい、困ったことがあります。ヘッドは木目と平行に力がかかるので折れやすいようです。安い弓だったので、そのまま捨ててしまいました。

また最初に買った弓は弾きやすかったのですが、どうも一度ペグボックスが割れた弓だったようです。別の楽器工房で試奏していた時に判明しました。ペカットという、割れが無ければ高級弓です。それでも10万円以上しましたけれど。ある時、スクリューを回していたらスムーズでなかったので、少し力を入れて回したら、ペグボックスが無残にひび割れてしまいました。購入した楽器工房にもっていくと驚くほど綺麗に直してくれました。もともと古そうな弓で、しなりが足りない気がしていましたが、やはり一度割れるとダメなんですね。

高級な弓を入手したとしても割れてしまえばそれまでです。一度割れた弓でもきちんと直せれば安い弓より弾きやすい場合が多いですが、強度が落ちて元の性能の2割くらいしか発揮していないと思います。

角弓と丸弓

弓の形状には、断面が六角形の角弓と丸弓があります。丸弓が多いです。弓の制作過程で段々弓を削っていきますが、最初は六角形に削ります。そして角を丸めて丸弓にします。しかし、細い弓で強度が出せると、軽くて良い弓になります。そこで、丸弓にせず、あえて角を残した角弓にすることで強度を出します。

どちらが良いとは単純には言えません。高級弓でも角弓は存在します。木材の材質が良ければ丸弓の方がしなやかで良いかも知れません。木材は均質では無いため、弓を削る量は個体差があります。筆者は角弓の方がしっかりしていて扱いやすくて良いと思いますけれど、好みの問題かも知れません。その木材にあった削り方がされていれば良いので、やはり注意深く観察して、試奏して決めるしかありません。

弓の国、フランス

歴史的に有名な弓のメーカはほどんどフランスにあります。ペカット、トルテ、サルトリーなど、有名な製作者はフランス人で、フランス弓といってブランドになっています。ただ、他の国にも良い弓はあり、アマチュアが使う弓であれば、フランス弓にこだわる必要はありません。フランス弓は、ブランド価値が高く、逆に他の国で制作された弓はそれに比べて割安と言えます。

材料の不足

実は弓の材料となる木材には、様々な条件が必要です。それらを満たすためヘルナンブコ(Pernambuco)という木材が使用されます。しかし、既に30年以上も前からヨーロッパのヘルナンブコは不足していて、ブラジル産のヘルナンブコが使われています。

ブラジル産ヘルナンブコを使用して、ブラジルの弓メーカも増えてきました。弓の製作には材料の良さは重要です。しかしそれ以外にもノウハウが多くあるため、一概にブラジル製の弓が良いとも言い切れません。ただ、人件費を考えれば、ヨーロッパの技術を使ってブラジルで制作した弓は割安です。

オールド・ボウとは

高級弓はオールド・ボウ(中古の弓)が重宝されています。オールド・ボウは制作されてから時間が経っているため、折れたり割れたりするリスクが少ないです。これは安くても50万円位します。

とはいえ弓の寿命はそこまで長くは無く、しなりが弱くなってくるとそれで寿命です。これは木材の寿命であって、新品として制作する際に強度と軽さを両立させるために、かなり細く削っているため、補強するのも難しいです。そのため、あまり古い弓だと木材が古くなってヘタっている場合もあります。

弓の形状がしっかりしているか、弾いたときに適度にしなやかで、しならせても元に戻るか、などをよく確認する必要がありますね。また弓の先端やペグ・ボックスは割れやすいため、よく観察してチェックする必要があります。

カーボン弓

高級な弓の話のあとに、カーボン弓の話を持ってくると異質な感じもしますね。確かに木を使った良い弓や状態の良いオールド・ボウの方が音色は良いに決まっています。しかし、アマチュアが使うなら、カーボン弓でも十分な場合も多いです。

筆者としては、少し良い木の弓と、カーボン弓の2種類をもっておくのが良いと考えています。木の弓は意外にメンテナンスが必要です。良い弓ほど扱いに気を使います。また毛替えに出している時は使えません。カーボン弓は数万円でも十分なものが購入できます。木の弓に比べると繊細さやしなやかさに欠けますが、丈夫ですしトラブルが少ないです。アマオケの本番でも十分使えます。

近年、木材の不足やオールド・ボウの寿命が尽きてきて、良い弓は高くなっています。アマチュアならカーボン弓でもいいかな、という気もします。初心者でまだ弓の扱いを知らない人は、まずカーボン弓で十分です。弓に対する知識を付けてきたら、少し高めの弓を買ってみるのがいいかも知れません。

まとめ

弦楽器の弓は意外に繊細なものです。新作は変形する場合がありますし、オールド・ボウでも良く試奏して注意深く選ばないとヘタった弓や一度割れた弓を買ってしまう可能性があります。初心者には難しく、高級弓が欲しい場合は、ある程度経験を積んで良し悪しが分かるようになってから買うのがいいと思います。

またアマオケで使う場合は、カーボン弓でも十分だったりします。ただあまり安くて変形しているような弓は上達に悪影響です。良し悪しが分かるまでは3万円位のカーボン弓でいいように思います。