バロック弓で弾いてみよう

ヴァイオリンでバロック音楽を演奏する場合、ピュアガット弦とバロック弓が使えるとモダンヴァイオリンでもかなり雰囲気が出せます。このページではバロック弓について書いてみたいと思います。

バロック弓の特徴

バロック弓は現代の弓とは大分異なります。まず弓の反り方が逆なのです。現代のヴァイオリンの弓が「逆ぞり」といって内側に反っています。バロック時代まではヴァイオリンに限らず弓矢のように外側に反った弓が使われていました。とはいえ、バロック時代になると原始的な弓ではなく、しっかり作られていて演奏法も確立していました。

バロック弓の弾き方

本格的なバロック弓は意外と難しいです。バロック時代に使われていた弓をベースに制作された弓は、それだけに現代の弓とは異なる奏法が要求されます。もし本格的なバロック弓を弾きこなしたい場合は、バロック・ヴァイオリンのレッスンに通われることをお薦めします。ここでは簡単に基礎的なバロック弓の弾き方を書いてみます。

弓元でしっかりした音を出す

現代の弓よりも、ダウンボーとアップボーで音色の差が大きいことが最大の特徴です。ダウンボーで弓元から弾く場合は、モダンの弓よりも太い音が出ます。バロック弓は毛の量が少なめであるため、音量は現代の弓ほどではありませんが、弓元ではしっかりとした肉厚な音が出ます。

弓元で倒れないように

弓元でしっかりした音を出すには、弓を出来るだけ立てることです。そうすることで多くの毛が弦に当たりますので、肉厚な音が出ます。アマチュアの人がバロック弓で弓元を弾くと大抵横に倒れています。かなり意識して弓をしっかり立てて弾くことが大事です。
書くのは簡単ですが、バロック弓は高さがあるので、意外にしっかり立てて弾くのが難しいのです。気を緩めるとどうしても倒れがちになります。これが一番難しい部分かもしれませんし、しっかり練習する必要がある部分です。

弓先は軽く

弓先はモダンな弓よりも軽くてスピーディな音が出ます。弓先は弾きやすいです。表現以前に、どうしても弓先寄りに弾いてしまいがちなので、弓元~弓中をしっかり使えるようにして、弓先は必要な時だけ使うと良いです。もちろん、弓元から弓先まで全弓で弾くこともあります。

弓元に素早く返す

ダウンボーで弓元から弓先まで弾いた後に、弓を素早く返してまた弓元からダウンボーで弾くことが良く行われます。モダンな弓ではアップボーを中心に使う逆弓が良く使われますが、バロック弓ではダウンボーが中心です。弓順もダウン・ダウンが良く使われます。バロック弓は軽い、とはいえ、弓先から弓元にしっかり素早く戻る動きは、結構練習が必要ですね。

普通にアップボーも使われますが、逆弓は使われませんし、アクセントが必要な強迫はダウンボーを使います。

アーティキュレーション

アーティキュレーションは弓での発音全体をさす場合もありますが、ここでは「フレーズの区切りで間を空ける」ことを指しています。バロック期の音楽の特徴でもありますが、流麗な長い旋律線は少なく、その代わりにフレーズの区切りをしっかり切ります。そうすることで舞曲風のリズムが生まれます。

バロック期はフランスなどで実際に舞曲が踊られていた時代で、リズムが重視され、舞曲の様式や拍子の強迫・弱拍のメリハリを大事にしています。また多少長めに間を取ることから、弓を返す時間が生まれます。

例えばメニューインやグリュミオーのような一昔前のヴィルトゥオーゾの演奏、カラヤンの演奏のように横に流れる音楽は、逆ぞりのモダンな弓があってこそなんです。

ロングローンとメッサ・デヴォーチェ

ロングトーンも、もちろん使われます。ただし一定の音量ではなく、バロック弓の形に合わせて自然に強弱が付きます。弓元から弓先まで弾いていくと、弓元~弓中ではクレッシェンドがかかり、弓中~弓先ではデクレッシェンドがかかります。
これは「メッサ・デヴォーチェ」と呼ばれ、歌唱でも良く使われます。今でいえばヴィブラートのような位置づけですが、あえて音を揺らさなくても自然にそういう風になります。メッサ・デヴォーチェに関しては特に練習するまでもありませんが、バロック弓では一定の音量でロングトーンを弾くことはなかった、と考えておくのがいいと思います。

これはモダンな弓とは全く逆の価値観ですね。バロック弓に比べて、逆ぞりのモダン弓は、弓元から弓先まで平坦なロングトーンが可能です。それにより、ロマン派の長くて流麗な旋律線を演奏できるようになった、という訳です。その代わりに単なるロングトーンは単調になってしまい、ポルタメントが良く使われるようになりました。また20世紀に入るとヴィブラートを常時掛けるなど、演奏者が表現する必要が増えた、とも言えますね。

弓元ではえぐり込むように

バロック弓を使う場合は、現代のようにヴィブラートを常にかけて強弱を表現することはしません。上述のようにメッサデヴォーチェが中心ですね。メッサデヴォーチェでクレッシェンドしたところで、ヴィブラートを掛けるのはも自然です。ヴィブラートは「強調」の意味があることが分かります。

また遅いテンポの曲で、メッサデヴォーチェでクレッシェンドしていくときに、バロック弓の高さを利用して、えぐり込むように深い音を出していくと、味が出てきます。バロック楽器のCDを聴いている人は理解できると思います。えぐり込むように深い音を出していき、裏板を鳴らすイメージで弾きます。

ヴィブラートは強調の意味がある

ヴィブラートは強調の意味があり、モダン・ボウを使っていても同様です。そのため、音楽的に強調すべきでない所でヴィブラートを掛けるのはあまり良くないです。ヴィブラート以外の装飾も、全部では無いですが強調の意味がある場合が多いです。

例えば、最後の音にヴィブラートを掛けると、最後の音を強調してしまいます。最後の音は「解決音」なので、心理的に待ち望んでいた和音なので、大きめに聴こえます。なので、軽く弾けば聴いている人は満足します。そのため「解決音」は軽めに弾くのが良いです。ヴィブラートはかなり軽めに掛けるか、掛けなくても良い場合が多いです。

「解決音」は、曲の中にも良く出てきます。和音で言えば、Ⅴ7(属七)⇒Ⅰ(主和音)などになります。音階でいうと、ファ⇒ミ、シ⇒ドという動きになります。部分転調も多いので楽譜を見ても分かりにくいですが、慣れれば聴けば分かります。半音進行があったら、後ろの音は「解決音」かも、と意識しておくと良いです。

その他

他にもバロック弓ならではの奏法は沢山あります。モダン弓よりも奏法の種類は多いと思いますが、これまで書いた基本的な奏法だけでも十分バロックらしい演奏になりますので、別の機会にしたいと思います。

モダン弓に近いバロック弓

以上は、本格的なバロック時代のバロック弓の話で、これをマスターするだけでもそれなりの練習が必要です。ただし、バロック弓は時代によっても変わるため、本格的なバロック弓でも弾きやすい弓もあります。弓元で弾きやすいか、をチェックしてみてください。

またCDなどでバロック奏法が耳に馴染んでいれば、モダン弓に近い弾き心地で弾けるバロック弓もあり、それを使うだけでも十分音色は変わります。いわばバロック弓もどき、なんですが、本格的にバロック・ヴァイオリンにチャレンジするのでなければそれで十分です。弓の反りはバロック弓と同じで、高さが低めな弓で横に倒れにくいです。モダンな弓を使える技術があれば、すぐに慣れると思います。バロック弓らしいスピード感と弓元での柔らかい響き、メッサ・デヴォーチェなどが簡単にできます。

まとめ

本格的なバロック弓を使ってみるのは良い経験になると思います。ただ安めでも15~20万円くらいはかかると思います。色々な種類があるので弾き比べてみて、弾きやすい弓を選ぶのが良いと思います。

弾きやすく作られたバロック弓(もどき)は、5万円くらいで購入できることが多く、一本持っておくと良いと思います。これを弾きこなすのにバロック・ヴァイオリンの先生につく必要はないです。ソロでバロック音楽を弾いたり、アマオケのアンサンブル大会でバロック音楽を演奏するときに使えますね。

東京など大都市圏には少ないながらアマチュアのバロック・オーケストラがあります。筆者もある団体に入団したことがありますが、特に管楽器など興味深い楽器が揃って楽しめました。バロック・オーケストラに入団するなら本格的なバロック楽器を揃えて、バロック・ヴァイオリンの先生につく必要があります。ただ上手くなくても、ちゃんとバロック・ヴァイオリンの奏法を勉強していれば、演奏人口が少ないこともあって、大人から始めた方でも入団できます。